業界情報
筆者は、多くの中小建設会社が弱点としている「工事利益管理」と「会計の仕組み」とをつないで「見える化」する仕事をさせていただいております。経営者には経営数値的管理の手法を、社員さんには工事利益の重要さを理解していただき、利益意識を向上していただくことで、工事利益率を増加させることに成功しています。また月次試算表の作成から、決算3ヶ月前より決算予測ができるような会計の仕組みづくりもお手伝いさせていただいております。
今回は、「与信管理の重要性」について寄稿させていただきます。ぜひとも中小建設会社の社長さんには「与信管理」というものを頭の片隅に入れていただきたいと思います。
まず与信管理とは、得意先から売掛金の回収ができなくなるリスクを予防することを目的とした管理活動を意味します。しかしながら中小建設会社では与信管理が手薄となりがちで、気がついたときには連鎖倒産などで会社に致命的ダメージを与えることがあります。
図1をご覧ください。年間倒産件数はリーマンショック後の2009年以降減少に転じて、2021年には2009年の約半分にまで減りました。倒産件数に占める建設業の割合も2009年の27%から、2021年には18%に減少しました。
しかし2022年より再び倒産件数が増加傾向に転じ、2023年には6376件から8497件へと増加しました(前年比33%増)。建設業の倒産も同時期、1204件から1671件で39%増となり、建設業の倒産が全体の倒産件数以上の急なペースで増加していること、今後もさらに増加する可能性が高いことを筆者は危惧しています。
今から25年くらい前、東証1部上場ゼネコンが倒産し、株価の額面割れが発生。当時の筆者はサブコンの経理部長として勤務しており、その東証1部上場ゼネコンの手形割引が銀行で難色を示された経験をもっています。信用不安からの連鎖倒産など、実際におきた出来事をこれからの経営者への警告としてお伝えします。
事例として、年商12億円、自己資本比率30%もの優良な会社でも、取引の2割を占めるゼネコンが突然倒産することによって資金繰りが休息に悪化し、連鎖倒産の危機に陥った状況を図2にてご説明します。 ※以下、カッコ内の数値は図2での事例です
まず4ヶ月サイトで割引した手形の買い戻しを銀行から要請されます(合計8000万)。次に当月の回収予定額と締日後の請求予定額(合計3000万)が回収不能となります。
取引先企業の倒産の影響は一般的に、不渡り手形の買い戻しと売掛金の焦げ付きだけと思われがちですが、それだけにはとどまりません。
工事中の現場がストップすると、下請け企業に工事代金の途中精算(3000万)が必要になるなど、多額の費用が発生します。ここまでで合計1億4000万のキャッシュが減少します。
さらに第2弾として、従来銀行から依頼を受けて無担保の短期手形借入枠が2億ありましたが、うち1億の返済要請がきて、1億のキャッシュが減少しました。まさに『晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる』銀行の習性そのものです。
第3弾として、材料等の仕入先がこの情報をかぎつけて、従来は期日120日の手形で支払ってきた仕入れ代金のうち半分を現金で支払うよう要請がありました。手形払いは月に4000万ありましたが、うち半分を現金支払いに変更。その結果2000万×4ヶ月=8000万のキャッシュが減少します。
この結果、第1弾(直接の倒産被害 1億4000万)+第2弾(厳しくなる銀行条件 1億)+第3弾(仕入れ先の条件変更要請 8000万)の総合計で3億2000万のキャッシュが消えることになりました。当初は優良企業だったので、第1弾の段階では資金繰りも問題なくできましたが、第2弾や第3弾の事態は予想外の出来事でした。
資金繰り面が厳しくなる点以外に忘れてはならないのは、20%を占めていた大口得意先が消滅することです。売上減は当然ながら、協力会社・社員職人や一人親方といった現場作業の方々の仕事も20%無くなることです。
仕事確保のために営業マンが奔走して新規受注先への安値受注をするため、営業経費の増加・工事利益率のダウンが発生します。これが目に見えない部分でのダメージとなります。
これを防ぐには、日頃から地道な営業活動を行い、できるだけ取引先を集中させないことです。大口取引先の一社が倒産や契約解除・条件変更などしたら、たちまち資金繰りに困ることになります。
大手ゼネコン等とお取引を開始する時には、自社の会社概要や決算書等を提出します。信用調査の実施です。決算書の内容に問題がある場合には、新規取引ができないこともあります。
しかし中小建設会社では、新規取引先となる協力会社に対してこのような信用調査をすることはほとんどありません。協力会社の信用調査をしましょうという訳ではありませんが、少しは気にする事も会社経営にとって大事な部分があると申し上げたいのです。
まず、協力会社の力量を見極めて適した現場を依頼する必要があります。力量の見極めには、協力会社の規模・設備や技術職員数などを考慮します。
次に、大きな現場の施工途中で協力会社が万一倒産した場合、工種にもよりますが途中で他の業者に引継ぐことは非常に困難で、仮に引継げたとしてもコストが予算を大幅に超過することが予測できます。
そのような危機を回避するために、協力会社の定量情報(決算内容)を必ず確認しましょう。決算内容は、建設業許可を取得されている企業であれば開示されていますので分かります。
また定性情報(決算数字以外の情報・会社の雰囲気について)も、現場の職人との会話などでアンテナを立てていれば情報収集も可能ではないかと思います。特に幹部社員の退職・賞与が出ない・給与の遅滞などといった情報が判明した場合は要注意です。
売上高と納税額だけに興味があり、決算書を理解できない経営者が多数見えます。簿記を勉強しましょうというわけではありません。会社の資産や借入金についての理解は、経理ではなく経営の範疇です。経営者が経営を理解する事は当然の話です。
また工事の利益額や利益率は、会社の儲けの基本です。これらの基本が分からなければ経営者になるべきではありません。その上で会社を守るためには、与信管理を改善する事が大事であると筆者は考えます。
与信管理の改善方法について、筆者の寄稿記事で参考になるものをご紹介します。ご興味があれば年商10億円規模の専門工事会社での改善事例が掲載されておりますので、ご参照ください。
No.068 与信管理の改善 - 名古屋の専門家紹介ネット (senmonnet.com)
与信管理の重要性をご理解される社長が増える事を願いまして、本稿を終了させていただきます。与信管理のご質問は筆者にお気軽にご連絡ください。